帰蝶 君はえっぢと同じく、3Gに拾われた子だった。 気がつけば俺の隣りにいた。 君は小さい頃から、えっぢと共に3Gの仕事の手伝いをしていたね。 まだ俺もここまで躰が弱っていなかった頃だ。 君は俺の手を引いて、よく丘を走ったね。 木登りも教えてくれた。 雲の動きで天候を読む方法も教えてくれたね。 父上から課せられた武者修行の合間、いい息抜きをさせてくれた。 帰蝶。 よく笑う君。 すぐ怒る君。 薙刀が得意だった君。 料理が上手な君。 桜の好きな君。 緑が似合う君。 俺が君に恋をするのは当たり前で、すごく簡単で、当然だった。 君が俺の事を好きだと言ってくれた時の事は、今でも鮮明に覚えている。 そう言ったあと、はにかみながら、顔を真っ赤にした君の顔は一生忘れない。 (照れすぎて俺を突き飛ばし川に転げ落としたっけ) 結婚を申し込んだ時の君の泣き顔を忘れない。 (照れすぎて拳で胸を殴られ続けた俺は肋骨を折ったっけ) ちょうどその頃、妖怪大戦争で父上と兄上が死んで、俺が信長を継ぐ事になった。 その時…国を継ぐ者の嫁としては自分はふさわしくないと… 君は俺の前から逃げた。 夜。 桜の舞う中、君を追う俺。 泣いて逃げる君。 俺があの時、咳き込まなければ、君は逃げおおせていたのかな。 介抱する為戻ってきた君を、そのまま抱いた。 俺は君を思い。 君は俺を思い。 夜の中ひとつになった。 閨の事は父からの教育で、その道の女を宛がわれていた。 女に導かれ、ひと通りの事は学んでいた。 だから、君を。 初めてだった君をなんとか痛みから解放しようと努力したら… 優しくしようと頑張りすぎたせいか、俺はその後熱を出し、君に担がれ城に戻ったね。 君は俺の枕元で頬を膨らませ怒ったね。 泣いて怒ったね。 そんな君を抱きしめた。 君は逃げなかった。 そして結婚して… その一年後に… 君はいなくなった。 俺をかばって君が死んだ。 間者に殺されてしまった。 俺の、香の、3Gの前で。 間者を追ったのは犬飼だった。 犬飼が追い詰め…俺が殺した。 どこの間者かもわからない。 真っ白な怒りのままに、俺がそいつを殺してしまったから。 君を忘れる日なんか1日たりともない。 桜が咲くとさらに君を強く思う。 君の笑顔を。 君の涙を。 君の桜色の頬を。 緑に桜の着物を纏った、桜の下で笑う君を。 どうして… 君は俺のそばにいないのだろう。 ん… なんだか楽しそうな「がはは」笑いが聞こえるな。 …………… ああ… …君そっくりな男がいるよ。 だけど異人のようだね。 女の子をいじめている。 そこは君と違うね。 君は男の子をよくいじめていた。 いや…ある意味同じかな。 (俺もガキ大将だった君にいじめれられていたっけ) 俺の団子を褒めてくれているよ。 君から教わって作っている団子だ。 女の子が食べそびれてしまっている。 少しわけてあげようかな。 香に叱られるけど。 まあ…いつもの事だ。 気にしなくていいか。 …そうか。香狙いでやってきたのか。 でも残念だったね。 香はあげないよ。 俺は、妹超大好き兄上だから。 「おいしく頂くのは、俺の団子とお茶だけにしといてくれるかな?」 俺がいきなり声をかけたからびっくりしてる。 ああ。 君と同じ瞳の色だ。